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【672】重量ハンデ願い下げの実力一本背負い [ビジネス]

 ここで話題にして取り上げる問題の質としてはあんまり好きでない領域なのだが、清濁併せ呑んで維持されていた旧来文化が劣化し、いま日本社会の生産性を著しく低下させている重大事例だと思うので、前回に続いて緊急企画を。

 『今度は体操かよ』の一件のことだ。悪い大人の虚構の権力の構図があからさまである。
 とりあえず他のノイズは一切排除しよう。まず生まれつき突出した素質に恵まれた若者がいて、運よくその素質が見いだされ理解され、周辺生活を合わせ込む調整も叶って、その道の最高レベルを目指して磨きをかけるという行きがかりが実現したとする。
 思春期の年齢にもなれば、本人はそこらの平均的な連中が望んでも手に入らない天性の出発点を自覚しているだろうし、ならばその幸運に努力を上乗せして、世界の強豪を相手に頂点を勝ち取るという目的意識も固まることだろう。ここまで全て噛み合っており、この一連の追求を目指すのが正しい。
 だが敵味方、平等に過ぎて行く人生の時間に対して、どんな手段の努力を注ぎ込めば自分の才能が最高点に到達するのかは判らない。その最高点が必ずライバルを上回る保証も無い。故に、時に自分の感覚や考え方を二の次にしてでも、最も見込みがあるとされる方策を選びながら頂点を目指すことになる。

 どうした訳か、ここに『誰それさんの言うコトを聞かないと、頂点に続く道は開けないよ』と通せんぼで割り込んでくる大人がいるのだ。
 その『誰それさんの言うコト』ってのがまた、『誰それさんお墨付きの指導者に着く』だとか『ある団体の奨励キャンペーンに協力する』だとか、体操の能力開発とは無関係の要求事項ばかり目立っていたりするのである。
 もう解説するのも馬鹿馬鹿しいが、その『誰それさん』が『業界のドン』みたいなことになっていて、指導者の名声争いやスポンサー契約のカネ勘定に采配を振るっており、つまり業界慣例の利権構造を利用したトク目当ての無能どもが、若い才能の成長過程にたかる構図となるワケだ。
 ここに才能を持ち合せているのは若者本人であり、『業界のドン』は立ち返って考えれば、何の役にも立たない無駄で迷惑な存在のはずなのだが、夢遊病者のように取り巻きどもが逆らえない慣習を周囲から固めてしまっており、それが長期熟成された成れの果てである。
 今これだけいろんな立場の人間から、他方をまともに否定する発言が飛び交うからには、関係者の多くがいつも理不尽に押さえつけられ、不満を抱えつつ過ごすような慢性病の業界文化だったのは間違いなかろう。

 若いお嬢さんがこんなものに調子を合わせることなく、『私の人生経験はまだ短いけれど、主張すべき私の考えを主張します』と宣言したのは立派だった。
 所詮は腐った老人の腐った文化といえども、馬鹿で虚弱で無責任な大人が見て見ぬふりしかしないとなると、やっぱり独り逆らうのは怖いはずだ。だから逆らえなかった過去の若者たちは、弱いくせに威張れるところで威張ることだけ覚えた大人たちに言いくるめられ威圧され、ボケ老人の権力ごっこのオモチャに甘んじるしかなかったのだ。彼女がそれを変えた。

 昭和の時代、安物楽器を手にした馬鹿ガキが音楽の真似ゴトをやって遊ぶうち、ほんのちょっとながらそれを生業とする世界の入口だけでも垣間見る機会はあった。音楽に限らずパフォーマンス系興業の世界は、殴る蹴るの暴行さえ辞さない厳しい上下関係・師弟関係にあるというのが一昔前の定番だったものである。
 今日のスポーツ業界にもその手の気質の一端が残っていると見るのが妥当かどうかは判らないが、ま、とりあえず想い出話を。

 戦後すぐのころ米軍基地で活動していた経歴のあるジャズ奏者に話を聞いたことがある。
 無条件降伏により日本は連合国の統治下となったのだが、具体的には進駐軍とかGHQとか呼ばれる機関が設立され、彼等としては戦後日本を仕切るため海外赴任して来ていた形である。
 戦勝国として日本国土に踏み込んでは来たものの、日本はそもそもが物資に恵まれない素朴な土地柄に加えて、戦禍で社会機能が失われた異郷の地だ。娯楽の対象になるものなど、身近に殆ど見当たらなかったようである。
 いっぽう空襲で焼け出され住処も家族も失った日本人たちが、そこらで瓦礫の中から使えそうな物を拾ってきて地面に並べ、その日暮らしの小銭を稼いで食い繋いでいたりもした時代のことだ。
 こんななか運よく楽器を持っていたり自作したりして、米兵相手にジャズの真似事を始める日本人が現われた。機械管理のセキュリティも無い頃のこと、いったん信用を確立できれば、基地ゲートは顔パスで結構自由に出入りできたそうである。ステージに投げられるお捻りは米兵にとってほんの小遣い程度の額だった反面、これが基地から一歩出て日本人社会に移った途端に相当な大金に化けたという。
 あまり門戸の広い業界でもなかったようだが、みな基地との関係を良好に保ちながら逞しく生きていた。ここに赤線のお姉さんたちが面白おかしく絡んで来たりもするのだが、その話はまたの機会にしよう。

 さて直接たずさわっていた業種について詳しくは聞いていないのだが、このころ銀座一円を仕切る実力者として幅を利かせていた『お銀さん』の話が印象深い。
 当時、やはりというか進駐軍の兵隊による白昼堂々の日本人女性暴行事件が散発したらしいのだが、ある日このお銀さんも狙われて米兵に組みつかれたという。
 ところがこのヒト合気道有段の本格派だとかで、すかさずその米兵を投げ飛ばしてしまった。
 普通なら即刻その場で権力頼みに捉えられ、いいように処罰されてしまう展開なのだが、さすが合理性の欧米スタイルとでもいうのか、現役の兵隊をのしてしまった日本女性の武術に感心した進駐軍は、自軍の兵隊たちにそれを習得させることを思い付き、後にお銀さんを指導者として招いたのだそうだ。
 こりゃあ付近一帯、暴行事件も減ったろうし、米兵たちもわきまえて遊ぶようになったろうし、社会の実力者として振舞うに値する十分な事実情報が知れ渡ったことだろう。

 社会文化のイチ業界で、上下関係・師弟関係に基づく行動規律の概念が成り立つためには、自文化の進化発展を脅かす暴力や、自文化が平和に栄える社会に危害を加える強権に対して毅然と立ち向かい、自文化の世界を安泰に守る先達がいなければならない。それはあなたにとって誰だろうか。
 あなたの生活のあちこちで常識のように主張されまかり通っている上下関係・師弟関係、そして指示命令系が、本当にそれ相応の根拠をもって運用されており、納得行って従うべきものなのかどうか、改めて体操競技の頂点を目指す若いお嬢さんの声明を聞きながら今一度熟考されたい。

 若い人たち、この日本に老人言ったもん勝ちの支配階級があるなんてまっぴら御免だろ?
 先達に守るべき礼儀はきっちり守れ、だがおかしいと思ったなら毅然と声をあげるべきだ。
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