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【1019】爽やかな朝の習慣の爽やかでないエピソード [ビジネス]

 年内最終回、まあいろいろあるが年末年始ぐらいキホン穏やかに行きますか。
 2021年は私にとって、実に人生で初めてNHK朝ドラを視聴した年であった。

 子供の頃から登校前後に見かける朝8時のこのドラマ枠の存在はお馴染みだったのに、本当にただの一度も、たった一話15分を通して観たことすら無かった。あの超有名な、中東諸国では国民的な視聴率を記録したという伝説のタイトル『おしん』でさえ、主人公が理不尽に不遇な生涯を送る話らしい…ぐらいの知識しか無い。
 そんな私が今年『おかえりモネ』をいきなり適宜の録画までして全話パーフェクトに観てしまい、何故かその流れで現在も『カムカムエブリバディ』の視聴を続けている。他でさっぱりテレビを観なくなったからなあ。

 『おかえりモネ』も『カムカムエブリバディ』も、舞台と登場人物が次々とフェーズ移行する造りが特徴的で、いずれもよくできていて面白い。昔のドラマにあんまりなかったストーリー構成ではなかろうか。
 で、『カムカムエブリバディ』で終戦直後、GHQ相手に演奏する日本人バンドのシーンが出てきた。“On the sunny side of the street”は明るい曲調でテンポもゆったりめ、踊りやすくダンスパーティでも人気のナンバーである。私はほんのちょっとだけ、まさにああいうのをやっていた人と付き合いがあった訳だが、その話の続編を少しやっておこう。

 恐らくは身寄りのない浮浪少年が、元ジャズ喫茶のマスターが急造したバンドに勝手に紛れ込んできて、空いたビール瓶をラッパ代わりにして、恐らくはいずれギョーカイに足を突込んできて重要な役回りになる…という伏線に見え、まあそんな爽やかな(?)馴れ初めで混じってくる人間もいたのかも知れないが、当時のジャズバンド界の実態はもっとお行儀のヨレた世界だったようだ。

 敗戦して焼け野原になった日本社会で細々と野営のような経済活動が自然発生してくる一方、GHQキャンプでジャズをやる日本人たちが現れ、そこで米兵から投げられる『おひねり』が大層な稼ぎになったという話は過去にしている【672】
 だが当時日本人がジャズのレコードを聴いて学べるような場所などそうそう無く、それができたのはGHQ区域内の進駐軍兵士たちの住宅だったのだという。つまり基地内に入って、米兵の許可を得て、彼等の居宅にあるレコードを聴かせてもらうしかなかったのだ。
 もちろん、ちょっと楽器がやれることをアピールして気に入られれば、おやおや上手いねさあおいで、好きにレコードを聴いて練習して、夜にステージで頑張ってよなんて都合のいい話があるはずもない。

 いきなりハナシが飛ぶが、今の時代いわゆるアルファベット三文字+ふたケタ数字系の女の子たちのお遊戯グループが幾つもあるではないの。さっぱり詳しくないのだが、アレってメンバーひとりひとりに何人かずつファンがついて、そいつらが特定のメンバーに入れ込んでグッズやチケットを高額で大量購入してくれたりして、その業績に応じる形でグループ内での『当店ナンバーワン』みたいな格付けが決まるんだろ?あの『総選挙』とかいうやつ。
 実はその手の『お気に入り育成システム』は昔からあるもので、当時の日本人バンドマンたちにもそれ相応にファンがついて、思い思いに人気を争っていたのだという。だがここでいう相応のファンとは、帰国の日を心待ちにしながら本国の実力派ジャズに思いを馳せる、音楽好きの米兵ではない。

 赤線のお姉さんたちである。もちろんみんな日本人だ。
 彼女たちも客の米兵たちの許可でパスさせてもらう形で、キャンプにはそこそこ自由に出入りできていたようだ。
 そう、夜な夜なステージをお得意様の米兵と食事の席から眺めつつ、まずお姉さんたちがお気に入りのバンドボーイを品定めして『コイツに目をかけよう』と意中に定める。で、お姉さんとしてはお気に入りクンを育てるため、お得意様の米兵の居宅でレコードを自由に聴いて上達できるよう、持ち主の米兵に交渉するのである。当然というか、ただのお願いごとではなく、お姉さんは米兵に無報酬で営業することで取引が成立すると。

 整理すると、お姉さんが米兵と別室でよろしくやっている間に、バンドボーイたちはその米兵の居宅にあるレコードが聴き放題だったので、その限られた時間に貪るようにレコードを聴き憶えてジャズを学んだのだ。秒分刻みの超短期集中型、もちろんカセットテープなど録音機材も一切存在しない時代に、とにかくもう必死で聴ける限り聴いて脳裏に焼き付けたものだ…とのこと。
 確かにこの世代の人は、だらだらのうっかりがつい零れ出るような、あやふやな演奏ミスをすることが無い。ミスヒットするにも我々楽譜やコード表を見ながらそれを当たり前にして熟練度を積んでいく今の世代の『後がある』『次がある』余地を感じさせる甘っちょろい間違え方とは次元が違っていて、まさに身体に反射神経レベル・本能レベルで叩き込んで覚えていて、それを外すというか。
 崩れるにしても質が違うってことなのだが、昭和の重保作業現場の安全衛生を肌感覚で知っている身としては、何となくだが、その学習過程の違いによる習得成果の決定的な差を感じるのである【566】

 それはそれとして、今度は育ててもらったバンドボーイとしても、お世話になったお姉さんにきちんと御奉仕することで物事を丸く収めなければならない。これまたその御奉仕が願ったり叶ったりという相思相愛の関係ばかりでもなかったから、なかなかきっつい本業外営業の肉体労働だったのだそうな。
 バンドボーイたちもお姉さんたちも当時としては大金持ちだったはずで、そんな身分同士でこんな悲喜こもごものギブ&テイクになってしまうからには、まだまだ日本社会の方が『いくらカネがあっても、それが回る経済の現場ができてきていない』という未開拓の荒れ地だったのだろうなあ。
 カネだけあっても使う先がなければどうしようもない。まずみんなで社会全体・経済全体を面白く潤沢にして、ようやくその空間をカネが循環するってことだ。

 …とまあ、このへんで切り上げると、全体的には割とコミカルな回だったっしょ?
 来年も世の中のあれやこれやを楽しく面白く考えて行く所存です。引き続きの御愛顧をよろしくお願い申し上げます。
 それでは皆さま、幸運いっぱいのよいお年を~!
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(。・_・。)2k

今年もありがとうございました
新年もよろしくお願いいたします
佳い新年をお迎え下さい


by (。・_・。)2k (2021-12-30 21:04) 

にすけん

  (。・_・。)2kさま、いらっしゃいませ。
 旧年いっぱいお越しいただきましてありがとうございました。

 そして2022年、開けましておめでとうございます。
 今年も引き続きの御愛顧をよろしくお願い申し上げます。
by にすけん (2022-01-02 21:01) 

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