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【875】真夏の交通安全、緊急技術トピック! [ビジネス]

 長い梅雨が明けたと思ったら、暑い暑い。まあ夏なんだから当たり前か。
 ちょっと緊急で、特にアルバイトに精出す若い人向けの話題を。御本人らはもちろん、そんな彼等を路上で目にする皆さんにも知っておいていただきたい、交通事故にまつわる大事なハナシである。

 なかなか外食のままならないこの御時世、料理の宅配ビジネスが盛んなようだ。自由に来客を呼び込めない外食産業にとって、生き残りのための命綱になっているケースも少なくないと思われる。
 で、その宅配には、二輪車=自転車・スクーター・自動二輪がよく使われている。運転者と配送物が乗っかれば良いのだから、車体も小さく狭い道にも入っていけるこんなモビリティが重宝されるというワケなのだが。

 この手の車輌を『ひらりひらりと、すばしっこい』とする社会通念を払拭しておきたい。
 二輪車はガタイが小さいだけなのであって、その機動性は決して高くない。というか四輪に対して遥かに劣るとして過言ではなく、まったくもって急に止まれないし、曲がれないのである。

 本件、まず『クルマはキホン前輪で止まる』という事実がネックとなる。
 みんな子供時代に自転車に乗り始めて『後ブレーキで止まる』という習慣を身につけてしまうため、単車に乗らない人は、どうかすると一生その理解のままオシマイだったりするのだが、それは誤解だ。
 二輪も四輪も、ブレーキをかけると車体の重心が慣性により前方に出ようとするため、前につんのめるような挙動になるのは御存知だろう。こうして前輪を地面に押し付ける垂直荷重がかかってタイヤの摩擦力が発揮され、車体が止まる。

 自転車も単車も、ハンドルの操舵軸が後傾しているのは普段から見慣れていると思う。この操舵軸を下方向に延長し、その仮想軸が地面に突き刺さる位置について考えよう。前タイヤの接地点よりも、かなり前方に離れた地点に刺さるのがお解りかと思う。この仮想軸の着地点と前タイヤの接地点の距離のことをキャスタートレールという。
 ブレーキをかけた時に突っ走ろうとする車体重量の慣性力は操舵軸にかかり、それを前タイヤの摩擦力がキャスタートレールぶんだけ後方から引張って止めるのである。だから前タイヤが最前端に付いていながら、ハンドルが左右に振られてしまわないのだ。
 裏返せば、二輪車は直進状態で、仮想軸の着地点~前タイヤ接地点~車体まで正中一直線に揃っていない限りブレーキをかけられない。左右どちらかに舵が切れていると、バランスが崩れて即転倒である。

 では後ブレーキで止まろうとするとどうなるかというと、制動Gで前につんのめって後タイヤの接地荷重が抜けるため、実にあっさり後輪がロックしてしまい、すぐブレーキを解放して後輪を転がしてやらないと、これまた即転倒する。チカラずくでどうにでもさばける重さしかない自転車の後輪ロックとは事情がまるっきり違うのである。
 なお自転車は単車に比べて圧倒的に重心が高いため前転事故が起きやすく、だから後ブレーキで後ろから引張って止まるように教えられるのだし、実際その方が安定するという理屈を知っておこう。制動距離だけで言えば、前転しないギリで前タイヤに思いっきり接地荷重をかけながら前メインで止まった方が短くて済むのだけれど、危ないので試してはいけません。
 だいたいあのほっそいタイヤが受け止められる制動力など微々たるものなのだ。

 さて次は操舵のハナシである。
 基本的にタイヤ幅いっぱいに接地面を取り、そのタイヤを地面に直立させて最大限の摩擦力を得ようとする四輪車のタイヤと違って、二輪車のタイヤ接地面は丸断面のロープを輪に繋いだような曲面構成の形状になっている。これは、車体を傾けタイヤを地面に対して寝かせた時に、接地点がタイヤ正中の周上から寝かせた側に移動するように意図して設計されたものだ。
 車体を左に傾けると、後タイヤの接地点は正中ど真ん中よりも左肩側に移動する。
 この左肩接地面がタイヤ一周分に成すのは、円錐面の一部だと御理解いただけるだろうか。後車軸の左遠方の延長上にその頂点が来るはずだから、この寝かせた仮想円錐が転がるように、理論的には円錐の頂点を旋回中心にして、単車はコーナリングする。
 このタイヤ接地面の形状で発生する旋回力のことをキャンバースラストと呼ぶのだが、後輪で発生するキャンバースラストに逆らわないよう、前輪がキャスタートレールに先導されながら、必要ぶん舵が切れることを許す構造になっている。これが二輪車の操舵原理だ。

 これも自転車の場合はタイヤがか細く車体が軽いため、まず体重を乗っけるために車体そのものを直立させておいて、前・後輪は各々ただ見た目のまんま転がる方向に任せて、大したチカラも必要なくどうにでもバランスが保ててしまうのである。だが単車の車重とタイヤのグリップではそうは行かず、きちんと車体を傾けて操舵原理に従わないと絶対に曲がらないのだ。目前にどんな絶体絶命の危険が迫ろうとも。

 このあたり、こわごわのそろ~りそろりから、時に危ない思いや少々痛い思いもして、みんな乗り方を覚えていったものなのだが、今般のコロナ騒ぎでは、二輪車の運転技術が未熟のままいきなりバイトで乗り始め、多忙の激務に追われて飛ばしまくったための事故と思われるケースが激増していると見受ける。いっぽう四輪車の方もすっかり二輪車の走行特性に対する認識が廃れてしまっており、二輪車が視界に入った時の危険予知がまるでなっていない。
 どっちの誰々がどう悪いのかはともかく、二輪絡みで交通事故を起こすと、衝突安全ボディも無ければエアバッグも無い二輪車の乗員は、かなりの確率でタダでは済まない。生活費の捻出は確かに死活問題なのだが、後悔先に立たない交通事故のリスクも冷静に量っておかないと、残りの人生が取り返しのつかないことになってしまう。

 今はもう降りてしまったとはいえ、私も単車は永遠に乗り続けていたいくらい本当に大好きだし、知って解って乗るぶんには、チマタで短絡的に叫ばれるような危険性の心配など要らないとする人間ではある。ただもらい事故の回避方策なんかは、どうにも手の打ちようがないところで随分とハードルが上がっているように思う。
 まずエンジン付きの二輪車は免許があるからといって思い通りには乗れないと憶えておくこと、そして自転車の軽快さ機敏さは平常時の乗員の気分だけのものに過ぎず、走行機械の機動性としては最低ランクレベルだと憶えておくこと。

 とりあえず今回は、路上の宅配二輪車に対して、本人も傍観者も重々気を付けていただきたい、その一点だけである。では引き続き、どなたもグッドラック!
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