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【1237】銀河クルーズ参加資格のメンタル問診票 [ビジネス]

 月面探査機SLIMくんは機能を残しているらしい。とりあえず素直に喜ぼう。
 脳天着地のまま、月面でいう西向きだっけかのソーラー発電パネルが受光し、完全ではないんだろうけど探査機能と収集データの通信成立が報告されている。
 まあ荷重支持するはずの足回りが仕事を失って宙を仰ぐ反面、欲しいブツなり情報なり天上から受け取るつもりだったのに、そのへん軒並み地面とにらめっこになっちゃってるんだから、逆立ち姿勢は結構な大打撃のはずなのだ。行き過ぎた期待はせず『いいコトあったら御報告よろしくっ』ぐらいで、面白いまぐれ当たりを待つ感じで丁度いいと思われる。

 本当に可能かどうかは別にして光の速度を超える移動技術を持たない現代の人類文明としては、4日間ほどで行ける月が宇宙拠点開発の到達限界であろう。
 …っちゅうか、国際宇宙ステーションISSでなくてせめてエコノミークラス級で構わないんだけど、その乗員席から思い立った都度よっこらせっと立ち上がってトイレに行けるくらいの自由度が確保できないことには、乗員のメンタルが持つかどうか心配である。座席に縛り付けられ、4日かけて現地に行って、また4日かけて帰ってくるなんて、それだけで現状の生物としての人間の精神力の限界ギリではないのか。
 そこらの一般人だと、一生に一回のことだから死ぬ気で頑張れと言われても、途中で閉塞感と拘束感に耐えられず気がおかしくなる方が普通だろう。

 早々に横道にそれるが、これのプチ体験版が船上生活だと思うんだよな。
 私が学生時代に船旅50時間で沖縄まで行った話はしたが【664】、うわ~凄い、この船で沖縄まで行くんだ、わあ陸地が見えなくなった、すんげーこんな景色見たこと無い…の未知との遭遇的な熱烈ドキドキワクワクの心境は、200メートル級フェリーならものの3時間もあれば、すべからく沈静化する。
 洋上に出れば普段は目にすることの無い明確な雨柱と虹を従えた積乱雲や、イルカだのトビウオだのいかにも外海らしい生物たちに歓声を上げたりもできるのだが、だだっぴろい床に雑魚寝滞在の大部屋で第一発見者の声を聞き、潮風強いデッキに駆け出して喜んでいられるのは数分から十数分のこと。
 あと夕暮れから夜明けまでは風も弱まり、さすがに空の超絶スペクタルショーが見飽きることのない素晴らしさなのだが、これとて当時すでにポータブルのカセット再生機で聴ける高音質の音楽があって、空の開けた場所に仰向けに寝転がって怒られない甲板スペースがあって、二晩だからそれで済んだのだろう。

 船上生活でしか味わえない貴重な体験の輝かしい記憶の隙間時間を埋めるのは、圧倒的なボリュームの閉塞感である。いま別に散歩に出て何キロも歩き回りたい訳でもなければ、真横に騒がしい手前勝手の群衆がいて迷惑な訳でもない。
 なのに文字通り『地に足が着いた安心感から浮いた』漠然とした不穏心理が拭い切れず、人も羨む優雅なレジャー時間のはずなのに、そのイメージ通りの解放感に身を預けてリラックスし切れない。
 ただただ変化のない『特別な時間』が流れるだけ。それをポジティブに消化し受け流すのが難しいのですよ。まだまだ知見の浅かった学生時代の私が、五感をもって記号接地で学習した貴重な知識アイテムのひとつである。いやあ、いい経験だったよ。

 どこまで乗客の要求値を満足できているかは知らないが、これを調達可能なブツで抑え込む最高級の豪華待遇メンタルケアとして、料理や果実をてんこ盛りにした金銀きらめく大きな杯が並ぶなか炎めらめらのジャグリング…みたいな過剰気味アトラクションの一般解が発達してきたのではないだろうか。
 一方かつての大航海時代には、自由経済市場の原理に則って一旗あげる野望に溢れた貿易船が数々競って長期航路に乗り出し、その少なからずが暴動により船上組織が崩壊して海の藻屑と化した【589】
 現代の社会生活のどこに適用先を見出すかは人それぞれだと思うけれど『孤立空間の集団マネジメント』という課題には、洩れなく意識して観察眼を働かせておいて損は無いと思うのだ。

 もちろん行き先が火星となると何の動力でナニを飛ばすかにもよるのだが、片道ですら軽く年単位の旅程となるのは避けられない。人間は、どこまで狭いワンルームに何人が暮らせるものなのだろうか。後戻りのできない期間中、どんな変化が起こって、どこまで自己完結で解決できるものなのだろうか。
 適性のありそうな掛け合わせで新生児から準備し、外界を知らない狭所で純粋培養式に育成して、それでも恐らく半分以上のダメなヤツはダメで、どうにか壊れずに持ち堪えそうな個体を選別して『火星開発適材準備局』を結成するとか、かなりムチャな人材開発をやらないと火星の有人開拓は計画から成立しないと思われる。

 その居住環境で直近の生命の危険を覚えるような要素など無いはずなのに、恐らくは当人の意識にある『世界モデル』として、何かしら『拘束されている』と自覚しただけの段階で、人間は自由空間と現状拘束条件の対比で頭がいっぱいになり、不安と不満と葛藤に苛まれる窮屈感のプログラムを備えた情報体なのだろう。
 裏返せば『情報』の領域で何らかの的確な工夫で処置を施せば、ウソのように問題なく生命維持の要件動作だけこなしながら、長期間の閉空間の滞在も可能になるのではないかと思っている。

 人工知能AIの開発が進むのに並行して、人間の『意識』『自我』『主観』とは何なのかの議論も見え隠れするのだが、人間がこれらをマシン語の文字列としてAIのプログラミング構築に適用できるくらい解明されれば、数日を越える長期宇宙航行の可能性に手が届くのかも知れない。
 ただここまで来ると、マジガチの文字通りに人間を操縦する精神コントロール技術の実用解ということにもなるからタイヘンだ。具体的成果の記録ファイルを手にしたとして、運用管理のステップでオオヤケ目線には行き詰まった構図で硬直しながら、水面下では無法・非道の実地適用事例が乱発する事態が予想される。
 『自分の願望を優先したい』『他人を従わせたい』『ジブン優位に浸りたい』みたいな卑小で不幸な自己満足の作動特性に抑制をかけられない粗悪ポンコツ情報体・人間なんぞに裁量を持たせてはならず、こんな時こそ究極の合理性で無欲に判定を下すAIの出番なのかも知れない。

 今度はAIの知力を助けにして、人間がポンコツ我欲を修正する順番ですかね。
 それはそれで面白いし、人間もAIもひっくるめて『世の情報体が社会性をもって作り出す技術の進歩』という見方ができる。『情報体の進化』が世を引張る時代だ。

 火星移住が叶う頃には、地球社会ってもう少しマシな問題で悩んでるのかな。
 そんな未来に馴染めるジブンでまずいたい。冬の夜空を見上げてグッドラック!
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