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【1202】百薬の長のらんまん処方箋 [ビジネス]

 とうとうNHK朝ドラ『らんまん』が最終回を放映完了した。いや素敵でした、拍手!
 まず前回の聞き間違いを訂正しておくと、3250ではなくて『3205種』でした。これに新種スエコザサが加わって最終的に3206種。

 大詰めでイツマ教授の演劇博物館構想やら、佑一郎くんの『この先は生涯ただのエンジニア』発言やら、それだけで軽く一回ぶん行きそうなネタが目白押しなワケだが、ライブパフォーマンスについては来週からの『ブギウギ』でまた語れそうだし、エンジニアの人生模様については普段からやってるのでこれまた語れそうだし、いま無理にたいらげようとするのはやめとくかな。
 『演劇とは、演じる者と見る者、人間の間にしか存在しない幻なの』『大学教授こそ普請場に出ろ!言うて教授会で煙たがられた』などの台詞に思わず腰が上がりかけるのだが、どう、どう、鎮まれ私。

 さてタケオくん・アヤ姉ちゃん夫妻の『輝峰』が槇野一家に絶賛されていたが、確かに日本酒は流通する場のカテゴリー別に、同じ日本酒と呼ばれながらも異種の飲み物として数多くが世の中に出回っている。
 私は言うまでもなく大の酒好きで、繁華街の飲み屋をハシゴなんてのはしょっちゅうやっていたワケだが、平成ひとケタの時代に普通の居酒屋で日本酒を頼むと、割と一定した印象の酒がとっくりに入って出てきたものだ。業務用の定番ブランドでもあったのかなあ。

 酒好きの私でも正直のところ、味そのものは決して『美味』と感じられるものではなく、かなり明確なツンとした揮発臭が鼻を突き、舌に多少ぴりぴりした酸味に近い刺激を感じるものであった。まあ酒が好きなので出てくれば飲むけれど、わざわざにこれを選ぶぐらいなら全部ビールでいいや…とも思ったもので、実際二十代の頃の私は、飲み会の終盤でもビールで飲み通すことが多かった。

 これが三十路に突入し…あ、思い出しちゃった。横道に突入しよう。
 日本人ばかり7~8人集団で、北米アリゾナ州フェニックスの焼肉店で飲んだ時のことだ。確か現地駐在員のヤツがその中に一人混じっていて、フェニックスで日本からの出張隊を迎えたらよく来る店だとかいう触れ込みで、店名も日本語だったような気がするが綺麗に忘れた。とにかくその店でのこと。
 遥か太平洋を越え西部の砂漠も越えて来て、ここでも出てきたのは、日本国内でよく出遭う一般的な居酒屋仕様の日本酒だったのが印象的だが、それはとりあえず置いといて、だ。

 そもそもから暑い気候の土地だし、行ったその日は夏だしってんで、入店早々の斬り込みから瓶ビールをどんどん注文したのである。少なくとも当時の北米の飲食店では、冷えたジョッキにお姉さんがサーバーからジュワ~っと注いでくれる生ビールの販売形態はあんまり見なかったと思う。
 まあ瓶ビールを頼んで、よく冷えたビール瓶とグラスが次々届いたまでは良かった。
 ところが何故かそこで終わらず熱燗のとっくりとおちょこが同数届き始めた。
 おいおい、こんなの頼んでないよー、だいたい今は夏だし表はまだ明るいぜ?

 現地でこれを実体験した人でなければ、ナニが起こっているのか判らないはずだ。
 オーダー通しのミスではない。では仰天の種明かし。

 まずビールをグラスに注ぐにあたって、泡が溢れるようなギリではなく7分目ぐらいに留めておくのだ。注いだら飲まずに次の作業に移る。
 もちろんというか、おちょこに熱燗を注ぐのである。
 正しい所作ではあるんだよな、以下の次工程さえ無ければ。

 では、おちょこを手に取って…そのままビールのグラスにぼちゃん!
 おちょこはグラスの底まで沈んでいき、細かい泡をもうもうと吹き上げる。
 !!!…この世の終わり、摂理の喪失コヤニスカッティの光景である【1133】

 これをグラスごと持って、中におちょこを落としたまま飲むのだ。
 この店の看板カクテル『カミカゼ』だというのが、駐在員の解説であった。

 古来日本に伝わる『神風』精神文化の冒涜である。酒にもビールにも謝れ。

 きちんと申し上げておくが、教養と良識をわきまえた日本人は絶対にこんなことをやってはいけない。そんなカクテルは存在しない。せっかくの、キンキンに冷えたビールと熱燗の両方の価値を台無しにするだけの破滅的行為であり、別々に楽しむべき両極端の双方を刺し違えさせて、後に残ったまるで飲み残しのような不愉快な生ぬるさの結末に後悔してオシマイである。考えなくても判るでしょうが。

 ビンボー呑兵衛が酔いの回りを目的に廉価日本酒をビールで割る『バクダン』というのがあるが、もちろん日本酒は常温以下が大前提だし、ビールの度数アップこそ得られるが味わいとしては決して褒められたものではない。因みに巨大ペットボトルのチープ焼酎を缶ビールや安発泡酒で割るのも、都心のジャズ屋の間では『バクダン』と呼ばれ愛用されていた。ロクでもない豆知識。
 とにかく北米フェニックスで私はこの『カミカゼ』とやらを激しく拒み、頑なに瓶ビールと熱燗を交互に飲み続けたのであった…というオチで横道を終えて、本筋に戻ろう。場所は日本国内だ。

 三十代後半になって東北地方への出張が増えた私はある日、山形県は新庄駅前の古い酒屋で生酒(なまざけ)の瓶を数本購入したのだ。その直後にまとまった日数の休暇が決まっていて、友人と山奥に泊まり込む予定があったので【370】、面白半分で晩飯の友としてハナシのネタにしようと考えたのである。
 いわゆる清酒は加熱処理をしてあるので常温の冷暗所で大丈夫だが、非加熱の生酒は文字通りの生モノ、冷蔵保管しないと品質が保てない。ポータブル冷蔵庫の準備など扱いには手が掛かる。

 この時点で私はまだ完全ビール派を自称しており、飲み屋で自分からわざわざに日本酒を注文しない人種だったのだが、この生酒を山に持ち込み最初のひと口をつけた瞬間に、その世界観が一変した。
  『どわっ、うんまいいい~っ!な、何じゃこれは?』
 私に比べれば遥かに平凡なただの呑兵衛で、普段から人並に居酒屋の日本酒も好んで飲んでいた友人と、お互い目をまん丸にして叫んだのである。
 しかもその夜かなりの量を奔放に飲んだのに、翌朝に残るどころか普段よりも清らかすっきり気分爽快、山奥の朝日を浴びて迎えた目覚めは、過去に記憶が思い当たらないくらい快適で健康的だった。飲んでいる最中から翌朝まで、20度に迫るアルコール度数が判らないのである。
 この一夜からビール一辺倒だった私の日本酒ハンティングが始まるのだが、かの友人には『あれを飲まされたお陰で、オレも居酒屋の日本酒が平穏に飲めなくなった』と文句を言われる始末であった。

 『輝峰』に口を付けたおスエ夫人が『こんなに明るいお酒、晴れた空みたいな』と表現していたが、あの時の驚きが私にも蘇ってきたのである。東北のどこか山奥で、本当に手を切るような冷たさの日本酒の清流がせせらいでいて、そこから酌み出しただけの自然の恵みなのではないかとさえ想像してしまう。
 実に日本列島は、世界に他例のない清水が湧き出し溢れる奇跡の島なのだ。

 最近の私は、外のお店で飲むことが激減したというか、睡眠の質を落としたくなくて、そもそも夜の時間にまとまった量を飲まなくなっているので、居酒屋の最新の日本酒事情はよく知らない。
 まあ居酒屋ポン酒、あれはあれで古き良き酒文化の象徴アイテムとして懐かしくも面白いので逞しく生き残るんだろうし、皆さん美味しくいただいて繋ぎましょう。

 『若年層が飲まなくなった』という話題は随分前にここでも扱ったけど【56】、令和の時代になってそうでもなくなってきているように思える。ただ楽しく騒いでハメを外すというよりも、刹那な発散の目的が見え隠れするゾーンに踏み込む姿が目立つ感じで、微かに気にはなっている。
 まあ若いうちはナニやっても平気だし、今の時代の若者たちのその苦悩をさらりと払拭する手立てもないロートルが心配するフリしても無意味だし、とりあえず各自なりに気を付けられるだけ気を付けて、存分にお酒を楽しんでくだされ。

 食いモンの美味い季節だがヘンな寝方すると風邪ひくぞ。お大事に、グッドラック!
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