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【1185】愛用品のプチ家出と再会のセキュリティ作動環境 [ビジネス]

 先週、何十年かぶりに財布を落とした。例によって数時間後には戻ってきたのだが。

 落とし物・忘れ物をやらかすにしてもモノが財布となると重大だからテザーをつけてあって、間違えて手を放してしまってもぶら下がるようにしてある。車に乗る時は左手で引くパーキングブレーキレバーにその輪を通し、前後左右の走行Gはもちろんのこと、荷物や乗員の昇降に紛れて車内から転がり落ちることが無いようにしている。なのに。

 その日は頼まれて、珍しいことに他人の車を私ひとりで運転していた。そしてまずここで、今やすっかり普及が進んだ足踏み式パーキングブレーキの車種だったので、テザーの輪が掛けるに掛けられず財布がシート上に転がっただけになっていた。
 車を預かって乗り始めて数百メートルでシートポジションとミラー角度が直したくなり、朝方の空いた郊外道路だったのでちょいと左へ寄せて一旦停止、シートとミラーを修正したまでは良かったのだが、ここで何故か後席に置いた自分のカバンを運転席から振り返って簡単に手の届くところに置き直したくなったのである。
 車内で半身を捩ってもがくより早いかと、一度降車して左後ドアを開け、車外から上半身を突込んでカバンを置き直し、再び運転に戻ったのだが…

 10分20分後あたりで交通量の多い幹線道路を走行中、そういえば引掛けてないけど財布どこだっけ…と気になって、すぐ横道に出て路肩に停車して車内を捜索。そう、不安や心配事は速やかに解決し、常に安定した精神状態で運転する心掛けが無事故安全の秘訣なのである。
 ところが不安的中、やはりどうしても見つからない。
 車のドアを開けたのは、シートとミラーを調整しカバンを置き直した時の一回だけだから、乗り込んで走り出した時とそこ以外に可能性は無い。

 すぐ車の預かり元に連絡してその旨を話したら、了解それはタイヘン、すぐ探してみるよと動き出してくれたため、私自身はもう任せっきりにして計画のスムーズな消化に専念する。
 果たしてその後、やはり路上で落としたと見られ、ちゃんと警察に届けられていて受け取りは本人でないとダメなんだって…とメッセージが着信。御丁寧に拾得物預かりの電話番号も知らせてくれたので一報入れて、現物の確保が間違いないところまで特定することができた。
 あらあ~警察にまで連絡入れて調べてくれたんだ、さすが有難い限りだがゴメンナサイ~と、せいぜい小一時間でのソッコー解決となり、私もそのままタイムロスなく走り切って用事を済ませ、当の警察署に出頭して何もかも元通りに収まり一件落着である。
 恐らくは車道の端っこに落としていたはずだが、見つけて拾って届けてくださった方は車で通りがかったのだろうか。時刻と拾得状況を警察で記録に残してもらったのち、名前も告げずに去って行かれたのだそうだ。さすがは日本、こんな空間に暮らせる価値ってどれほど大きいことだろう。

 財布を落としたと判明したその瞬間も、あの心臓が縮み固まるような緊張感に苛まれつつその場から慌てて引き返すような気分には、微塵もならなかった。品が良いとされる現場の土地柄もさることながら、何よりここは日本だ、事なきで解決できたはずなのに独り焦って交通事故を起こしましたでは悲し過ぎるな…とそっちの計算思考が自然に湧いてきたのには我ながら面白かった。
 私がトシ喰って厚かましくなったのはあるだろうが、他国じゃまずこうは行かない。

 それにしても私としたことが、よもやこんなミスをするなんて到底あり得ない。
 本題はそっちなのだが、財布の落とし物ネタがひとつ寝かしっぱなしになっているのを思い出したので、今回は横道で先に消化しておくことにする。

 もう10年くらい前だろうか、確かゴールデンウィーク突入早々あたりのことだ。
 ちょいと自家用車で出掛けて交通量もすっかりガラガラ閑散の休暇モードになっている街ナカの幹線道路を走っていたら、大きな交差点の一角に目立つピンク色の財布を発見した。
 停車して拾ってみると間違いなくお財布、しかも内容物は結構詰まっていそうな、名のあるブランド高級品と見受ける。おやまあ何の御用でこんなお方がこんなところに?と大きな御世話の疑問を抱きつつ、最寄りの警察署に直行である。

 さすがゴールデンウィーク初頭というか、20代の首都圏のお嬢さんのIDカードとその他数々、現金は20万円以上も入ったどえらい内容であった。今も私の拾得物における圧倒的な最高額チャンピオンであることは間違いない。
 ゴールデンウィーク期間を目いっぱい楽しむつもりで準備したのが明らかで、この娘この瞬間から、どんな気持ちでどうやって過ごすんだ…?
 だが困ったことに何枚も入っていたカード類には御本人の携帯電話の番号が記載されたものが一枚もなく、警察署のその場から連絡をつける手段が無かったのである。止むを得ない、早く御本人さんが気付いて警察に一報入れて財布と再会し、せっかくのゴールデンウィークを心置きなく楽しんでくれることを祈るばかりであった。

 私の携帯が鳴り、くだんの警察署から連絡取りつぎの打診が来て、当の持ち主嬢から元気で丁寧な御礼の言葉をいただけたのは、ゴールデンウィークが過ぎた数日後。
 はっはっは、いや~ここニッポンでは大事なモノ落っことしても手付かずで戻ってくると相場が決まってるんですよ。これからは大事に持っててあげてくださいましな。
 せっかくのお休みの出だしが想定外でタイヘンだったでしょう…と余計な質問をしたら、落とした直後もそんなに不自由せずに切り抜けられていましたとのお返事で、とにかく良かった良かったと大笑いのハッピーな幸せ通話は終了、ちょうどその夜に近所の友人と飲みに行ったのでこの話題を提供したら、彼がぽつりと漏らした。

 『その娘もいつか財布を拾ったら、必ず届けるなあ』
 …あ、なるほど。確かにな。

 根強い日本消費現場の現金主義だが、多くの日本人が情操整備を確かめ合って暮らす限り、電気も食わなければソフト更新も不要な、こんな相互保障空間でのカネ所有とID証明が可能なのだ。これ、何もかもデジタルうんたらでスマホに仕込んでいて路上に落とし、見落とされて車に踏まれていたら取り返しのつかない大ゴトになっていた。

 いま日本経済は低迷の一途であり、当時に比べて高額・重要な遺失物が無事に持ち主に戻る確率は下がっていると思う。自身の暮らしが一般的日常の最低限を割り込んでいる人間が増えれば、悪意は無くともそういう傾向にはならざるを得ない。
 それでも、まだ日本社会はお互いさまのお陰さまで、事業費もかけずにこの夢のような社会機能を実現している現実を改めて実感した。日本に生まれて、日本に暮らして、日本人で本当に良かった。

 子供の頃の教え通り、名前と連絡先を付けておくのが今どき必ず良いことかどうかは状況次第の判断が必要だが、遺失物との再会はいつも本当に嬉しい瞬間である。
 この夏のお出掛けで落とし物などしないように御注意を。ガチでグッドラック!
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