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【1160】命懸け間違い探しの予習講義 [ビジネス]

 5月5日の子供の日、NHK『舞い上がれ!』総集編を観ていたら突然の地震速報。
 最大震度6強、大型連休だというのに家屋の倒壊もあり亡くなった方までおられる。
 こればっかりは、日本列島に住む以上は避けようがない。身体は無事でも避難所暮らしを強いられている方々も多いと思われ、どうか気を付けてまずは安全に余震をやり過ごしていただきたい。お大事に。

 例えとしてタイヘン不適切な気もするが、前回からのハナシの流れとして物事の見方を理解しやすい巡り合わせのタイミングなので、失礼して言及しておこう。
 地震など自然災害の場合、建築物などの倒壊・崩落の危険を知りながら管理者が放置して損害が出ることもあるにはあるけれど、キホン『想定外の不可抗力で、誰が悪い訳でもない』事情が一目瞭然に明らかである。
 『だから、この勢いで処置が動くのだ』という認識で、まずは当たっている。

 裏返すと、後ろ暗い隠し事が露見するので困るとか、人為的原因ははっきりしているのに責任逃れしたいだとか、『人間の悪意や邪心による真実の隠蔽・歪曲』が絡むから、たちまち処置対応が動かなくなるということだ。
 何度か述べた通り、関係者の意識世界の外側にあった可能性が事故を起こすのだから、ウソで取り繕うにしても頭の中に無い架空の未知のストーリーをでっち上げることにしかならず、故にすべからく初歩的な作話ミスで破綻するのは必然なのである。
 うまく誤魔化せる結末などこの世には無く、あからさまなデタラメを正しいと言い張って周囲が辟易するのを待つか、何と言われようが無言で一切を隠して相手の根負けを狙うかの二択にしかならない。

 …と仰々しく解説してみたが、実はこんなもの誰もが人生の経験則として心得ており、最初から大衆の見解は決まっていて、その後の展開も決まっているものだ。あとは時間の問題である。
 今般の一件にしても、宮古島のあの場所に自衛隊幹部10人の乗るヘリコプターが飛んだそもそもの理由は『誰もがぱっと見て普通に察する通り』であり、それが意図的に隠されて険悪な沈黙を引きずっているだけだ。
 まあ隠されてオシマイで良しとするか否かは各々の立場での判断次第となろう。

 さて、随分前にオスプレイの解説で少し言及した『オートローテーション』という専門用語について【306】、技術的なハナシをひとつ追加しておきますかね。
 宮古島の事故機体が熊本拠点に回収され大なり小なり飛行記録の分析が進むはずだが、航空工学に疎い一般大衆層をケムに巻くような、タチの悪いニセ専門解説が出回らないようクギを刺しておこうと思った。

 飛行中のヘリコプターがエンジンの故障に見舞われても、主ローターは揚力方向の回転を続けて、滑空状態のように軟着陸することが可能なのだ。エンジンでわざわざ回さなくても自然と=オート、回転=ローテーションしてくれるので、こう呼ばれている。

 ちょっと考えると、機体が自由落下する時の気流は、揚力発生と逆方向にローターを回転させることが判ると思う。機体が重力に引かれて下向きに落ちるんなら、下から上に吹き上げる風に沿って風車のようにローターが回されるのが自然なんだよな。
 ならばエンジンが止まったヘリコプターのローターは徐々に揚力方向の回転力を失ってやがて止まり、自由落下と共に今度は逆回転が始まって、結局そのままどすんと墜落するだけなのではないか?

 結論から行くと答は『NO』、違うのだ。不思議な感じがするんだけどねえ。

 ひとだまと板カマボコを足して二で割ったような、翼断面を想像していただきたい。
 左を前縁側、右を後縁側だとすると、画面左側から一様の風が流れてくる訳だ。
 この時、鉛直上向きに『揚力』が発生する。

 厳密には空気抵抗が翼を押し戻すため画面右向きに少し『抗力』も発生するが、今は『揚力』の上向き矢印に着目していただきたい。
 左から来た一様の風は翼の前縁に正面衝突して上下に分かれるが、翼の上面を舐める空気流はずっと一定速で後端まで進むのではない。
 翼断面をイルカだとすると、ちょうど背びれのあるあたり、つまり一番高くなっていて、左からの一様の風の方向と揃うあたりで全速力となり、その先はいわゆる『流し』で残りを走る状態を経て、後縁に達し翼断面が切れて、下面側の空気流と再会する。

 最も高い位置で上面に沿う流速が一番出る=その背面が吸い上げられる=揚力発生、という順番で現象のつながりをイメージすると理解しやすいと思う。
 『…つるっ…』『…しゅるっ…』と流れが急速にすり抜けるところで圧力が低くなり、周囲のモノがそこに吸い寄せられる感覚で結構だ。いま細かい理屈は置いとこう。

 では画面左側から吹いていた一様の風の方向をちょっとだけ変えてみることにする。
 翼断面廻りのスムーズな流れをぶち壊さないくらいすこ~しだけ、左下から右上に抜ける方向に流れをずらす。ほんのちょっと翼が腹面側から風を受けることになるのだが、よろしいでしょうか。
 ポイントは、この新たな風の入射角に対して、風と翼上面流の方向が揃う『最も高いイルカの背びれ位置』が、翼の前縁側に移動するところにある。そして前ずれしたその背びれ位置の翼上面が、面直の上向きに吸われることになる。

 『翼の揚力は・風の入射方向に対して・直角上向きに・発生する』という日本語文章になるのだが、お解りかな?
 水平飛行していた翼が、僅かに降下し始めて腹面で空気を受ける条件になった時、鉛直上向きだった揚力ベクトルは若干前方に倒れることになり、前進つまり推力方向の成分を発生する。これが、オートローテーションにおいて回転翼が揚力方向に回り続ける原理である。
 ホントは航空力学的にもっと厳密で面倒くさい理屈があるのだが、とりあえずはこの程度のフィーリング物理・エモ流体力学で解った気になっていただければ十分だ。

 エンジンが故障しても、十分な高度で回転翼に薄~い角度で斜め下から風が当たればオートローテーションは発生し、ある程度の揚力を維持しながら滑空状態で降下して軟着陸することができる。
 もし宮古島ヘリ事故の解説で『オートローテーション』というコトバが出てきたら、皆さま各自このイメージをもって辻褄を検証するのがよろしいかと思う。
 意図的に何だか小難しいコトバを言い放って、それで大衆が反論できず納得に甘んじたテイを一方的に決め込み、勝手にハナシを周知徹底扱いで進めるような横車を、10人も殺した凶悪テロ実行犯政権に許してはならない。
 本心から率直に事故の現実を語り、誠実に事実経緯の理解を得ようとする人間なら、知恵と国語力を尽くして専門外のあらゆる人々にも十分な正確さの実情把握を手びいて、社会組織に広く共感を求めるものだ。賢い大衆は正確な知識で社会運営層を厳しく評価し、信頼に値する良質のマネジメント気質風土を各自の管理意識で維持しよう。

 そうそう、最後に横道を挟むが『オートジャイロ』という形式の航空機があるのだ。
 単発の小型プロペラ機から主翼をむしり取って胴体と尾翼だけ残したような姿をしており、胴体から真上に軸が伸びて、主翼の代わりにヘリコプターの主ローターのような回転翼が付いている。
 機首のプロペラで滑走路を走って、主ローターに風を当ててオートローテーションを起こして離陸する仕組みなので、この回転翼は動力で駆動されない。大袈裟に横幅を取るデリケートな主翼が無くて済むのだが、垂直離陸や空中静止ができないこともあってか、あんまり実用化は進んでいないようだ。

 おっとっと、久し振りに工学ネタをやったら一回ぶん埋まっちゃったよ。
 まあいいや、かくも本当に機械技術は面白く役立つものだけれど、使い方を誤るとその効力は消え去り、ときに死傷事故の原因となって人間の身に降りかかる。
 そんなことのないように我々機械屋は専門知識を限界まで駆使して、手段を択ばず躊躇せず、いつも機械技術が心躍る幸福の源泉であり続けるよう管理するのである。

 宮古島ヘリ事故処理の技術屋たち、しっかり頼む。どうか無事故・安全で御幸運を!
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