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【951】大遅刻に急ぐ出前ライダーの昭和交通サバイバル心得帖 [ビジネス]

 ホント言うとゴールデンウィークの前が良かったんだけど、気が付いたら過ぎちゃっていたのでしょうがない。まあ季節としてはまだまだこれからのタイムリーな話題だから大丈夫だろう。いや怖いんだって。
 単車の乗り方解説の第二弾である。今からでも出前ビジネスに首を突込んで新米ライダーになる人は少なくないと思われるし、ぜひ気を付けて乗ってください【875】

 『いいがぁーおんめぇら!単車てなぁな、ナナハンでも小さくてナメられんだよ!』
 昭和の終わり頃、大学生協にはツアー会社よろしく夏休み期間中の合宿免許取得プランがずらりとラインアップ掲示されていた。私は自分ちの大学で、東北のとある温泉地にある教習所のコースを選び、3週間の山籠もりで普通乗用車と中型自動二輪の実技を一括で終わらせることにしたのである。
 いま思えばこの選択は大正解であり、都会っ子サラリーマン式に品行方正を自分都合のディベート手段に読み換えたような『ルールを傘に着た傍若無人、社会性そっちのけの俺さま正当性主張』ではない実用交通安全コンセプトに基づいた乗り方を、しっかり体育会系のスパルタ式に仕込んでもらうことができた。
 『中型ならもう路上で一番速いんだから、どんどん前へ出ろ、きびきび走れ!』

 我々教習生のホンダCBX400Fを5台連ねて『いいからまずは付いてこい!外周路では絶対5速まで上げろ!』の一言で、CBXは全5速だからつまり最高ギアまで上げろという指示なのだが、冗談抜きに実にいきなりのスタート、急加速である。単車なんか今日乗るのが初めてだという教習仲間がビビって車体を倒けられず、私の目前でみるみる外側に膨らんでフェンスに吸い付いていった。あーそうそう、確かにこの重さの車体をエイヤと倒すのって最初コワいんだよな~なんて思いつつ、停まって救援を手伝う。
 因みにこの男、数日後に今度は時速40キロから確か11メートルで停まれの急制動で、いきなり後輪をロックさせタイヤの白煙を上げながら大転倒した。こんなの急制動でも何でもねえじゃん、やれやれ教習所でやるぶんにゃ好きなだけやって構わないんだろうけど。

 我々世代にとって中型二輪の教習車といえばホンダ400ccのホークⅡかこのCBXだったのだが、いずれもエンジン表面に細かいフィンを立てた空冷式で、これって構造が軽量シンプルで整備性が良かったりするメリットがある反面、真夏にもたもたよちよち走っているとエンジンに十分な走行風が当たらず割と簡単にオーバーヒートしたものである。『カリカリカリカリカリ…』と異音を立てながらチカラなくへたったエンジンを止めると、『チンタラ走ってるからだ、バガァー!』とか怒鳴られたりもするワケです。
 因みにホークⅡにしてもCBXにしても、その後ひと時代おいてロクでもない改造のカスタムベースとして異常なまでの人気を拍しているのが面白い。あんなもんのナニが好適条件なんだろう?

 教官じきじきに『ここで思いっきり走っとけ、一生ぶんコケとけ!』と散々けしかける始末で、しかし後に一般交通に飛び込んでいく準備段階としては、実に理に適った環境だったと思う。当時、免許取りたて直後の死亡事故数が激増していたとかいう話だったから、その対策が叫ばれ、時代なりにあちこちの現場任せになった結果だったのかも知れない。
 街ナカの教習所に通った大学同期の友達によれば、急制動は30キロ8メートルだし、そもそも教習コース上で3速30キロ以上は出すなとか当時にして言われていたそうだから、逆にそんな『失敗させない』だけの習熟レベルで、よく卒業させて路上に送り出していたものである。死ぬぞ、ホンマに。

 そう、交差点でも踏切でも、単車はとっとこすり抜けて先頭まで出るんだよ。
 よーいドン!でダッシュしたら、もう後続車とは二度と遭わないし遭ってはならない。危険な背後からの絡みを一切なくすため、周囲の交通を常に前から後への一方通行で流し続けることにより自分の身を守るのである。

 いや、ここ最近『単車のすり抜けは交通規則に違反する』とでも言いたげな、それこそ危険極まりない稚拙ちびっこ交通トークを見かけるので、かねてから気になってしょうがなかったのだ。これからの暑い季節なんか、エアコンの効く四輪ならともかく、炎天下に二輪に跨ったまま渋滞に付き合う意味などどこにある?二輪はどんどん先へ行くべきだし、四輪はどんどん先へ行かせてやるべきだろう。
 ただ、確か葉山あたりの海岸沿い134号線がすり抜けできないくらい道幅が狭くて中央分離帯もややこしかったのを思い出す。ああいう道は一旦ハマり込んでしまうと正直どうしようもないので、渋滞しそうな暑い季節に二輪は寄り付かないのが賢い。つらい気候の時期は、そういう苦難に遭わない道にしておく心掛けは必要だ。

 昔は中型二輪=排気量400ccの限定付までは教習所の習得プログラムを消化してクリアすれば取得できたが、それ以上の大型二輪は、単純に技能見極めの一発試験で勝負する『飛び込み』でしか取れなかった。だから私のように、学生時代に限定解除しておかなかったハンパ者には、その後に忙しくなりその機会を失い、400あれば高速は不自由しないし大型車は維持費もかかるし…ってことでそこで止まってしまい、結局大型に乗りたかったが乗れないまま終わっている不完全燃焼の単車乗りが大勢いる。
 後に単車業界のビジネス活性化という社会的な目的もあってか、大型二輪まで教習所通いで取れるようにはなったのだけれど、いま目を疑うのはそこで保証されている運転技能の低さである。

 原付なんかは自転車と同様、右レバー=前ブレーキ、左レバー=後ブレーキなのだが、通常の自動二輪は右レバーが前ブレーキは同じとして『後ブレーキは右ペダル』なのである。つまり右足は右ステップ定位置から離れることは無いはずなのだ。
 だがエンジンのかかっている自動二輪に跨って、両足をブラブラさせながら走る欠格バカの多いことには呆れ返るばかりである。前しかブレーキがかからない以上、運よく直立直進が成立している状態でもない限り、ブレーキレバーを引いた瞬間にフォークが縮み、その揺り返しでキホン左右のいずれかにハンドルが切れて転倒する。決まっとるだろ、この操作原理の体感理解がなぜ身についていないのかが解らない。

 通常の舗装路面の走行速度からは前輪の制動力が主体として『前一点では不安定なので、後ろからもちょいと引張って直進を保つため前8:後2~前7:後3』と言われるのだが、不整地路面や低速域での制動についてはキホン後ろから引張って停めないと、沈んで戻るフォーク反力の挙動が車体操縦の敵になってしまう。いわゆる『立ちごけ』という未熟然とした失態で転倒するタイプであり、当然こんな危険な技量ではすり抜けて交差点で最前列に出ることなど到底ムリだ。自車に接触でもされたら迷惑千万である。

 右足が遊んでいて右側に転倒する危険な失敗モードが自虐公開動画に多すぎて驚く。今の教習所って、二輪免許の取得者予備軍に一体ナニを教えている?
 こんな運転技能レベルの蔓延に合わせ込む形で『すり抜けは違法』なんてことにでもなったら、普通に単車を知っていて自由に乗れている連中が大迷惑もいいところだ。ちゃんと運転できることを前提に、自動二輪はどんどんすり抜けて、路上最速の走行体として、きびきび走るべきである。四輪としては、トロトロウロウロ絡まれると怖くてウザくてしょうがない。

 この御時世だから、生活の必要にかられて二輪の運転を始めた方もおられると思う。もちろん免許があれば乗って処罰されることはないが、ああいう乗り物をきちんと一般交通でさばける技量が自分にあるのかどうかは考えた方が良いと思う。注意一秒ケガ一生、万一の場合『コロナ死ぬ死ぬ』どころでは済まない。
 のっぴきならない事情の運転が四六時中交錯する一般交通の時空間において、幼稚園児のように純粋な安全意識を教科書棒読みで叫んでも、自分の身は守れないのだ。

 この程度の理解すら危うくするような不用意な公共言論こそ、日本社会の劣化を進行させる腐食性の情報公害なのではないだろうか。ともあれ走る皆さんは、この逆境を無事に安全に逞しく切り抜けてください。では交通安全をお祈りして、グッドラック!
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