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【661】迫害プレッシャーの圧抜き技術解 [ビジネス]

 昔も今も戦争は『技術戦』の一面を持っている。
 『風立ちぬ』の劇中で、堀越技師が軍に拉致されようとするところを会社にかくまってもらう下りが出て来るが、アレ?なんで?と思った方もおられるのではないだろうか。

 この場面設定についてまず解説すると、当時の日本国は連合軍と戦争状態にあり、そこで戦闘の役割を直接負うのは日本陸海軍。その軍が、製造メーカーに対して武器を発注するという、意外にも平時の日常的な社会の仕組みに則ったものである。戦争だからって、日本人の誰しもが仕事も私生活もなくなって、適材が片っ端から無条件の無償で日の丸背負って軍事活動に参加し、戦力を支えていた訳ではない。
 戦争にでもならなければ、当時のこととはいえ企業間の国際交流は珍しくなかった。いや、飛行機なんか日進月歩の最新技術領域だったから、各国の優秀な人材が自社開発のため盛んに情報交換していたと思われる。
 だがこれは、軍にとっては勝敗を分かつほどの機密が敵国に漏洩しているスパイ横行の構図にもなり得てしまう。大戦中は各国で優れた技術ほど目を付けられ、組織も人も成果も、軍が乗り込んで管理しようとしたのであろう。

 日本国が耐熱合金の開発に遅れていた話はしたが【311】、その一方で軽く強靭な『超々ジュラルミン』など構造部材の独自技術開発は進んでいた。
 一方ややこしいことに、もちろん相当額のライセンス料は払ったのだろうが、世界工業技術の最先端たる同盟国ドイツからの技術供与にもあやかれていた【459】
 例えば遊就館に展示されている艦上爆撃機『彗星』の愛知航空機製エンジンは、ダイムラー・ベンツ製エンジンのライセンス生産である。更には実用に到らなかったが、世界初ジェット軍用機メッサーシュミットMe262は『橘花(きっか)』として、ロケット軍用機Me163は『秋水(しゅうすい)』として、一応この日本で試作されている。
 ナニが超機密の自国技術でナニが超高額の同盟国技術なんだか、戦時中の事だし混乱してないはずがなく、こうなると取り締まる方も、誰をどこまで取り締まっていいのやら。

 優秀な技術者がいたとして、軍の勝手な都合で拉致幽閉でもされたら、技術者本人も会社も大迷惑でとても仕事にならない。軍部としても、上記のような高性能の最新兵器をモノにするには、結局のところ優秀な技術者がガチの本気で能力発揮してくれる必要がある。
 そんなこんなで軍部としては、抜き打ちの連行と尋問で一定の睨みを効かせはしても、拷問がらみの屈服要求まではやらなかったのではないだろうか。詳しい話は聞いたことないけど。

 このついでと捉えて恒例の余談に言及しておくと、かつて紹介した先尾翼式の迎撃戦闘機『震電』【320】、大戦中にジェット機化する計画があったという妙な作り話が飛び交っているようだが、全くのガセである。『震電』は開発当初から一貫して空冷レシプロエンジンのプロペラ機なのだ。よろしく。
 『震電』の特異な機影は、まあパッと見ジェット機になりそうな形はしているものの、操縦席から後ろのあの胴体長では絶望的に寸足らずでジェットエンジンは収まらない。また正面向けに口を開けて空気を喰う丸型吸入口が必要になるだろうし、あっという間に燃やし尽くしてしまう莫大な燃料を積む場所も、どこかに新設せねばならない。
 たぶん見た目でつい連想した作り話が独り歩きしてしまったのだと思う。そのくらい想像力をかき立てられる、革新的な飛行機だということだろう。

 さてハナシを日本航空技術に戻して、日本軍部の公式記録に残る各機諸性能のデータは、機体を米軍に接収され適宜ゴム部材やオイルなど良質の代替品に交換の後、オクタン価の高い米軍の燃料を喰わせて試験したところ、総じて大戦末期まで十分に最新鋭級の性能を持つレベルだったことが判っている。敗戦の時をもって、敵国の手に落ちるのを避けるため自らの手で破壊・焼却された機体も数知れず、今さら悔やんでもしょうがないのだが、実にもったいない限りだ。
 『気合いだけで乗り込む骨と皮ばかりのポンコツ飛行機』などと得意顔で揶揄する無知丸出しの左巻き、最近は随分と見かけなくなったが、この機会に完全に撲滅しておきたい。

 終戦を経て復興・急成長する加工貿易国日本において、家電製品や自動車などが質・量とも爆発的な進化を遂げ次々と世界的ブランドになっていったのに対し、航空機製造業だけがすっこ抜けたように不自然に手薄だった理由。それは戦勝した連合国側から、日本航空技術を恐れてこその圧力がかかり、有り体に言えば市場競争でマトモにかち合う領域での航空機製造を禁止されたためと言われる。
 そこであぶれた技術が、自動車や新幹線など多岐に昇華された【440】
 後に北米自動車市場は階級違いの市場競争力を持つ日本車に席巻されることになるのだが、ある意味必然の因果応報と言えよう。

 モノ作りの理想的な生産性組織の姿が描かれている反面、唐突に堀越技師がアンネ・フランク状態でかくまわれる理由には、こんな社会背景があった。
 技術屋としては、この状況下で艱難辛苦を乗り越えて設計をやり切るドラマもあるだろうに、そっちには殆ど触れず、モノ作り理想郷の描写が優先されているところがタイヘン興味深い。
 答を見てしまえばナルホド納得の正解なのだが、何故ジブリはそれを知っている?

 このトピックで結構回数を重ねてしまったので、次回は現実に戻るとしようか。
 例によって『消費税率10%引上げは、余程のことが無い限り…』と複線張ったら【653】、大阪で地震は揺るわ、西日本一帯で大雨は降るわ、一転してその後は日本列島丸ごとが酷暑激暑で焼き尽くされるわ、えらいことになってきた。
 神さまは見ている。日本列島も見ている。
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