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【644】どんぶり勘定サービス残業の満足度 [ビジネス]

 またかよ、もうメチャクチャだな。不正と捏造の疑惑漂う『働き方改革』とやらのことだ。
 あれってさあ、日本国民の意志を代表する立場として選出されたメンバーたちが、日本社会の明るい将来を目的意識に持って慎重に検討を進め、国家運営方針を議決している姿なんだっけ?

 10年以上前にここで何度か取り上げた裁量労働制、当時は『ホワイトカラー・エグゼンプション=間接業務労務管理の融通拡大』なる用語が飛び交っていたものである。最近の若い人には馴染みが無くなっているかも知れないので、基礎から改めて解説しておこうか。
 まず青い作業着で工場ラインの組立作業、これがブルーカラーの代表的イメージだ。その生産力は製品に直結するので『直接業務』と呼ばれる。
 いっぽうワイシャツで事務所のデスクワーク、これがホワイトカラーの代表的イメージだ。その生産力は直接業務の作業内容や仕組みを変えたり、事業全体の経営方針を決定するなど組織運営の情報操作として顕れるもので、直接業務に対してこちらは『間接業務』と呼ばれる。

 直接業務は、作業標準で決められた定型作業をこなすスタイルとなるため、賃金は時間単価に就業時間を掛け算すれば算出できる。
 ところが間接業務はそう単純ではなく、例えば来年度の経営戦略立案が一人あたりおいくらなのかは、そう簡単に算出できない。というか何通りもの考え方と、それを解釈した計算式が多岐に拡がるため難しい。実績に基づく職務ランクに対応して頭数割りでおいくら、のようなやり方もあるだろうし、完全に成功報酬制にしてしまって、コミットメント達成の証左をもって成果項目逐一を御代と交換、も一手になり得る。
 直接業務の実直な遂行は製造業のリアルタイム生産力を支えるのだが、それを適正化し継続的な組織収益に結びつけるには、優れた間接業務による直接業務の適切マネジメントが不可欠だ。よって組織全体の収益性を確実に保証する責務を負って、ホワイトカラーは『相対的に優遇されつつも時価で買い叩かれる』運命にある。

 ここで『組織全体の収益性の保証』をどう評価し、賃金換算するかが問題となる。
 一番わかりやすいのは、ある一人が新規参入して、そいつが『いない状態』から『いる状態』になるビフォー・アフターで、収益向上の実績差額が明確な場合である。その差額まるまんまかどうかはともかく『ハイ成功報酬、これね』とまとまった一時金の形で賃金支払いが可能だ。
 だが逆に損失を出した場合、その瞬間に払い戻させるのか、あるいは業績回復の責任を負わせて継続雇用し最終的に収益を刈り取るまでやるのかの選択もあれば、そもそもがそんなに個人効果が単発的に組織収益を左右することなど無いのが普通だ。
 よって、とりあえず基本給を決めておき、在職中の実績を反映させた職務ランクを設定、この職務ランクの階層で出世競争を頑張ってもらうのがポピュラーな賃金体系となる。あとは、知名度の高い表彰を受賞するとか、組織のイメージを落とすようなボロい不祥事を起こすとか特別変動系の一時評価が乗っかると。
 本来『ボーナス』というのは予定外の収益に付いてくる、この領域の『賞与』なのである。

 さて、なかなか一筋縄で定量換算できないホワイトカラーの『組織全体への収益性の保証』ではあるが、高度経済成長期においてはブルーカラー的な量的効果の概念が強かった。
 ひとつに終身雇用が常識だったので帰属する組織のために、個人都合を二の次三の次にする社会気運が高く、『職場として必要なコトをこなすため』にみんな仕事をしていたこと。そして戦中戦後の厳しい記憶が社会に残っており、有難味を解って習得された平均値の高い教育が、道理として均質に成果出力を生んでいたこと。
 また国際的に見て、高い技術力が安価な労務費で稼働する日本社会だったため総じて重宝された時代であり、日本社会ウチとしては経営力やマネジメントの優劣に関わらず、仕事に溢れ商売繁盛が叶ったこと。
 つまり、まあ大体その業界でマジメに仕事しているつもりで暮らしていれば、つもりのまま本当に仕事になっちゃっていたという、今ふり返ってみれば特殊なラクチン行きがかりの社会情勢だったのである。これが日本社会の労務標準モデルとして意識されてしまったところに間違いがあったのは確かだ。

  『やるべき仕事は無限にあるので、やったらやったぶん仕事になる』
  『定時で上がるのは仕事嫌いの怠け者、良い仕事の節目は深残でつける』
  『仲間がそのペースでやっている以上、組織力維持のため自分も同調せねば』
 こんな理屈が成立し、相応に現実になる条件が揃っていた時代ゆえ、ホワイトカラーの賃金体系にも残業効果の定量計算が常識になっていた。
 10年前いやその遥か以前に、既に自由競争市場はその常識にそぐわない変質を遂げており、その問題について考え始めたのが、ここを立ち上げる動機のひとつにもなっている。
 少なくとも日本社会の労務意識は、高度経済成長期の残滓と決別する必要があると思う。

 だがだからといって、この度の『働き方改革』とやらがその役割を担って作用するかというと、答は全くもってのNOだ。
 立法・行政・司法の機関横断型・組織認知症の犯罪者組織が、『企業財務が好転したから日本経済は好調だ、だから消費税率を上げて良くて、軽減税率で還暦公務員を食わして良い』と言い放つための、労務管理あやふや化政策というのが実態である。
 この不況下では、様々な名目のもと公金の支援あってこそで、経営がどうにかなっている企業は多い。その財務処理にあたって、一般に最大級の支出費目となる人件費を削らせて、業績を好転させる額面操作を許す…というか強要して合法を主張させる根拠を仕込むのが、この異常な労務概念なのである。

 おわかりだろうか。景気好転のデマを流布する仕込みってことさ。
 惰性の慣習的なカラーが強かったとはいえ残業代の賃金階層を強行に削ぎ落として、財務上だけは諸企業の収益性を好転させようとする犯罪シナリオの1ピースなのである。だからあの勢いで、本来なら採決として事実認識すべきではないのが明白なのに、『またしても』の強行採決と相成ったワケだ。世襲のガキ、改憲賛同との交換条件ひとつクリアってことだな。

 ま、学生さんが注目浴びながら襟を正す姿が目立つ昨今、相応に映ったとは思うがね。
 こういう場面で『結果はともかく経緯が大事』という表現を使うのだ。頼むぞ、野党たち!
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U3

まったくその通り。
by U3 (2018-05-31 16:52) 

にすけん

 おや、U3さま。
 またのお越し、ありがとうございます。

 時々新橋のSL広場で『俺たちが日本をここまでにした』などと酔っぱらって大口たたく団塊の世代が映ってたりしますが、あの世代って単に誰が何やってもボロが出なかった時代に、油断して日本経済の質を落としただけなんですよね(笑)

 いずれ日本国がこんな失敗に陥っている公務員キャリアの特質についても考えてみようと思っております。楽しみに御愛顧いただけますと光栄です。

 またのお越しをお待ち申し上げます。
 どうもありがとうございました。
by にすけん (2018-05-31 23:54) 

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